ボスニア・ヘルツェゴビナ料理の概要
ボスニア・ヘルツェゴビナはイタリアの東方、アドリア海を挟んだバルカン半島に存在する小さな国です。
そんなボスニア・ヘルツェゴビナにはどんな料理があるのでしょうか?
ボスニア・ヘルツェゴビナとはどんな国
まず、ボスニア・ヘルツェゴビナとはどんな国でしょう?
ボスニア・ヘルツェゴビナは東欧のバルカン半島にあり、国土全体が山岳地帯に覆われた小さな国です。
しかし小さいながらもさまざまな民族が居住し、お互いが分断し合う多民族国家となっています。その理由は、険しい山によって民族同士が隔絶された歴史が長く、文化的に融け合うことなく今に至っているからです。
加えてここは昔からヨーロッパとムスリムがせめぎあう場所でした。
長いビザンツ帝国の支配の後、15世紀後半にオスマントルコが攻め込み、占領されます。バルカン半島の中ではボスニア・ヘルツェゴビナに当たる地域ではムスリムの改宗率が高く、オスマントルコへの忠誠が高くありました。こうして全土がトルコ・ムスリムの文化に覆われました。
第一次世界大戦でオスマントルコが崩壊した後、ボスニア・ヘルツェゴビナはユーゴスラビ連邦に併合され近代化が進み、オリンピックが開かれるなど平和と繁栄を享受します。
やがて冷戦が終わると、バルカン半島の民族は一斉に独立運動を起こし、ユーゴスラビアは崩壊します。このときに生まれた国がボスニア・ヘルツェゴビナです。
なおその際に、バルカン半島全体で悲惨な民族同士の紛争状態に陥りました。内戦が終わり平和が戻った現在でも、お互いの民族の間で小競り合いが続いている場所があります。
ボスニア・ヘルツェゴビナ料理とは
では、そのような歴史と現状を背負ったボスニア・ヘルツェゴビナの料理はどんな料理でしょうか?
現在のボスニア・ヘルツェゴビナは、先に述べたように歴史的経緯からトルコ・ムスリム文化が全土を覆っています。そのため、どこの地域でも食べられるのが、肉として豚を使わず牛や羊を用いるいわゆるムスリム料理です。
ただしムスリム料理と言っても、オスマントルコが広めたトルコ人ムスリムの料理で、アラブ人や他の中東のそれとは違います。
しかしここは宗教に関してはイスラム教徒とキリスト教徒がせめぎ合っている国です。キリスト教には食事の禁忌がありません。
そのためボスニア・ヘルツェゴビナでは豚も食材として使用された料理が出ることがあるといっていいでしょう。ただし豚肉を使いながらも、あくまで「トルコ人ムスリム風」にアレンジされた料理が出るのがポイントです。
このようにトルコ料理の文化に染めあげられた国ですが、一方で民族どうしで食文化や風習の違いがくっきりと色分けされているため、使われる食材のバリエーションが多数存在しています。
それゆえ、各民族が集まる首都サラエボでは同じ名前の料理でもさまざまな食材でアレンジされたものを出す店が存在しています。
ボスニア・ヘルツェゴビナ料理の食材
ボスニア・ヘルツェゴビナで使われる食材は何でしょう?
まず、ボスニア・ヘルツェゴビナにしかない食材というのは存在しません。どこの国でも見られる野菜や小麦・米などが食材として使われます。
ただしこの国は各民族が集まる首都サラエボでは同じ名前の料理でもさまざまな食材でアレンジされたものを出す店が存在しています。
牛や羊
ムスリム料理ではメジャーの食材です。ムスリムの居住地域や、サラエボのムスリム料理専門の店でよく見られます。
豚
豚肉が禁忌ではない非ムスリムのキリスト教圏の民族が飼育しており、ムスリムが来店しない店で使われます。
ただし前述のように、これも「トルコ人ムスリム風」の料理にされて出されます。
乳製品
牛や羊が飼われている場所なら必ず作られるのが乳製品です。バターやチーズ、ヨーグルトなど普遍的な乳製品が見られます。
ボスニア・ヘルツェゴビナの料理
では、ボスニア・ヘルツェゴビナの料理には、具体的にどんなものがあるでしょうか?
チャバプチチ
ボスニア・ヘルツェゴビナでは最もメジャーな、羊のソーセージの一種のような料理です。
パンを油にたっぷり浸し、真ん中を割ってサンドイッチのように挟んでからタマネギなどの野菜類を加えて食べます。
トルコで見かける肉料理に非常に似ていて、ボスニア・ヘルツェゴビナがトルコの食文化の下にあることを強く感じさせます。
簡単に作れてジューシーで値段も安いため、ファーストフードのような感覚で気軽に食されています。庶民の食べ物として非常に親しまれており、街のいたるところで売られています。観光客も気軽に買えます。
ブレク
パイの生地を作り、タマネギや羊の挽肉を載せて巻き寿司のように細長く巻いて棒状にしてから、鉄板に載せて焼いて作る料理です。
これもチャバプチチと同じようにトルコと似ている料理です。
チョルバ
チキンスープにパスタや卵などを加えた、オスマントルコが広めた料理です。
ボスニアコーヒー
トルココ-ヒーに似ています。角砂糖は沸かすときではなく飲むときに入れます。フィルジャンという取っ手が無いカップで飲まれたりします。
ラキア
トルコのラクをボスニア風にアレンジした物です。ブドウの蒸留酒で、スパイスとしてアニスが使われています。
ピタ
トルコ風ではない、ボスニア・ヘルツェゴビナのご当地料理です。ただしバルカン諸国に共通して食されている料理でもあります。
見た目はパイのような感じのものです。フィロという生地で食材を包んだものですが、その食材としてほうれんそう、挽肉、ポテト、チーズなど多数のバリエーションがあり、飽きません。多数のバリエーションの理由は民族や地域ごとに食材の好みが分かれているからとされています。
さまざまなピタを味わうことで、ボスニア・ヘルツェゴビナらしい食事を堪能することが出来るでしょう。
ボサンスキ・ロナッツ
トマト風味のじゃがいものシチューです。
郷土料理として庶民に親しまれています。
サルマ
肉・野菜・米を団子のように丸めてキャベツで包んで煮込んだ料理です。
ピタのように食材には多数のバリエーションがあり、これもまた各民族が分断しているボスニア・ヘルツェゴビナゆえと言われています。
ソガンドルマ
タマネギの中に挽肉を詰めたもので、庶民では定番の家庭料理とされています。
ボスニア・ヘルツェゴビナは複雑な歴史が重なり、民族や宗教がクッキリと分かれ、それゆえに食材のアレンジも多数存在する国です。
しかしながら一方では、オスマントルコがもたらしたトルコ人ムスリム風料理のもとで一つの色に統一されている国でもあります。
ボスニア・ヘルツェゴビナ料理を味わうということは、そのような分断と統一のせめぎあいというお国柄を味わうということでもあるでしょう。
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