キルギス料理の概要
中央アジアの国キルギス共和国は、旧ソビエト連邦に属していた国で、ソ連崩壊とともに独立を果たしました。東は中国、南はカザフスタン、西はウズベキスタン、北はカザフスタンに囲まれた内陸国です。
キルギス料理は、特に北に接するカザフスタンの影響が強く、また中国から伝わったと思われる麺料理も食べられています。
イスラーム文化が強い食事
キルギス人のおよそ7割がイスラームを信仰するムスリムです。そのため、キルギス料理の多くはイスラーム文化が色濃く反映されています。
つまり、イスラームで禁忌とされている豚肉の料理はほとんど作られていません。
もっとも、キルギス人の3割ほどはロシア正教などを信仰するキリスト教徒であり、キリスト教徒が多い地区では豚肉も食べられているようです。
キルギス人の中には、中国から移入してきた中国系ムスリムもおり、そうした人たちの中では中華料理に近いものも作られています。
キルギス料理の主食
キルギスで最も広く食べられている主食はナーンです。ただし、インド料理屋でよく見られる薄く引き伸ばしたものではなく、丸く整形した小麦粉をきつね色になるまで窯で焼いたもので、見た目はインドのナンよりも中国のモー(食へんに莫)に近いものです。
キルギスではナーンを粗末にしてはいけないと言われており、残したり地面に落としたりすることは許されません。また、ナイフで切らず、手でちぎって食べなければならないという決まりもあります。キルギスではナーンが日本の米と同じぐらい大切にされていることがうかがわれます。
キルギスの飲料
キルギスで最もよく飲まれているのは紅茶で、現地ではチャイと呼ばれます。チャイは中国語の「cha」がなまったものでお茶そのものを指す言葉なので、必ずしもインドのようなミルクティーを意味するわけではありませんが、キルギスでもミルクティーは多く飲まれています。
キルギスの紅茶の多くはロシア産。ロシア文化の影響で、ジャムを加えて飲むこともあるようです。
他に伝統飲料として、麦芽を発酵させた炭酸飲料マクスム、麦芽を原料に、塩を混ぜたヨーグルト「アイラン」を加えたジャルマなどがあります。
キルギスの酒
キルギスを代表する酒にクムスがあります。これは、馬の乳を発酵させた馬乳酒の一種。ロシアでは同様のものをクミスと呼びます。
実はクムスは、日本のカルピスの元になった飲み物であるとも言われています。
キルギス料理でよく使われる食材
キルギス土着の民族はほとんどが遊牧民でした。また現在でも遊牧生活をおくる人々がたくさんいます。
キルギスの遊牧民が育てている動物は、羊、ヤギ、ヤクなど。そのため、キルギス料理では、羊料理を代表に、ヤギ、ヤクなどの肉が多く使われています。
また、遊牧民の主要な移動手段であった馬の肉も多く食べられています。
内陸国であるキルギスでは海の魚はほとんど食べられていません。
しかし、イシク・クル湖、ソンクル湖という大きな湖があるため、淡水魚は食べられています。採ってからすぐ焼き魚にしたり、保存食として干物にしたりといった利用をしています。
代表的なキルギスの料理
キルギス料理は大きくわけて2種類あります。1つはキルギスの土地で生まれた遊牧民の料理。もう1つは隣接する国々から伝えられた料理です。
ベシュバルマク
キルギス料理を代表するものとしてまず挙げられるのがベシュバルマクです。
ベシュバルマクは、ゆでた幅広の小麦の麺に、馬肉や羊肉、馬肉のソーセージ、玉ねぎなどを乗せた麺料理です。
ベシュバルマクは「五本の指」という意味があり、もともとは手づかみで食べるものだったようですが、現在はフォークを使って食べる人も多いとのことです。地域によっては幅広麺ではなく細麺を使うこともあるようです。
ベシュバルマクはカザフスタンでも食べられています。
また、ベシュバルマクとは似て非なる、ウイグルの手延麺に羊肉などを乗せて食べるラグマンも人気料理です。
キルギスでは特に結婚式や誕生日などお祝いの日には必ず出されるいわば「ハレの日」の料理だとも言えるでしょう。
パロー
トルコから中央アジアを通りウイグルに至るまで共通する料理にピラフがあります。
トルコではピラウ、ウイグルではポロと呼ばれていて、面白いのはそれぞれの国でそれぞれのピラフを、ピラフの源流だと主張していることです。
キルギスではピラフをパローと呼んでいます。
キルギスでは、羊肉や牛肉、玉ねぎにんじんなどとともにご飯を煮込み、クミンで風味づけを行います。呼び名が違うだけで、ほぼウイグルのポロと同じものであると言っていいと思われます。
パローもお祝いの席で必ず出される料理です。
マンティ(マントゥ)
おそらくは中国の包子が伝わった点心。ネパールのモモと同様、羊や牛のひき肉をスパイスで味付けして小麦粉の皮で包んで蒸したものです。
キルギスのマンティで特徴的なのは、必ず羊脂を加えるということ。これは遊牧民の食文化で、キルギスでは他の料理にも羊脂がよく使われます。
サワークリームをつけて食べるのは、ソ連時代にロシアから伝わった文化のようです。
キルギスのマンティは、土着の遊牧民文化、中国から伝わった文化、ロシアから伝わった文化などが融合したキルギスらしい料理だと言えます。
アシュラン・フー
アシュラン・フーは、中国から移住してきたムスリムのドンガン人が伝えた麺料理です。中国に接するカラコルという町の名物となっています。
うどんに近い小麦粉の太麺、デンプンで作った中国で涼皮と呼ばれる麺の2種類が、酸味が効いた冷たいスープの中に入っています。
夏によく食べられる軽食です。中国系民族が伝えたということなので、実際元は中国の涼皮だったのかもしれません。
ショルポ
ショルポは、おおぶりに切った羊や牛の肉を長時間煮込んでだしをとり、そこにじゃがいもやにんじんなどを加えて火を通し、柔らかく煮込まれた肉とともに食べるスープのこと。
味付けは塩だけで、肉から出ただしのうまみをダイレクトに味わえる遊牧民らしい料理です。
ガンファン
ラグマンにかける羊肉と野菜を炒めたトマトベースの具をご飯にかけた料理です。
ガンファンはおそらくは中国語の干飯(ガンファン)もしくは蓋飯(ガイファン)が元になっていると思われます。これもドンガン人が伝えたものか、中国から伝わったものにラグマンが融合してできた料理かもしれません。
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